目が覚めた。
本当は数分間、目を閉じていただけなのだったが。長い間、夢の中で彷徨っていた、そう思えた。
夏の昼間の刺すような日差しが脳天から身体を貫いていた。汗も乾ききっていた。喉の渇きを感じた。
ガラスの中にいたあの女は、姿を消していた。テーブルの上に赤いマジックペンと、雑誌が放って置かれていた。開かれているページには真っ赤に塗りつぶされた車の写真。いや、マジックペンと思っていたのはルージュだった。真っ赤な。
同じ色の車が目の前に止まっていた。不思議な感覚だった。
扉が開いた。
扉が開いた車の中にはあの女が載っていた。黒いスーツを着ていた。タイトなパンツをはいている。唇は、やはり真っ赤なルージュだ。
開いた扉は運転席側ではなかった。誰も降りてこない。自分に乗れということだろうか。
自分とその車の数メートルの範囲で、何か特別な空間が出来上がったようだった。ただ、ぎらぎらと照りつける太陽の光はますます、その力を増しているように感じた。
暑い。。。。
車に近づいて、車の中を覗こうとした時、後ろから大きな力で押されたために車になだれ込むようになった。頭がぼぅっとして、気持ちが悪い。だがどうしようもなく身体が重く動くことができない。意識が遠くなる。自分は助手席にいるのか後ろの席にいるのかもわからなくなった。
目を開けると、美しい海が静かに波打っていた。パラソルの日陰にある白いテーブルには、ウイスキーグラスがそのままになっていた。太陽は真上にある。
丸い大きな氷が解けてグラスから溢れ出したために、大きな唇の形をしたコースターは、濡れて艷が出ている。
背後で車の扉を閉める大きな音がした。
赤い唇がそのとき、閉じた。
甘い匂いが流れた。いやそれは錯覚だったのだが。
酸っぱい匂いも流れてきた。それも錯覚だったのだが。
舐めまわしたくて仕方がない。あの唇は誰にも触れさせたくない。突然強く気持ちが動かされた。それが何故なのかはわからない。
その女は唇を舐めた。小さな舌で。ぺろりと。いや、そんな気がしただけかもしれない。
目を閉じていた。我慢ができなくなっていた。妄想なのか事実なのか分からなくなってきた。赤い唇が揺れていた。目の前で。
唇を押し当てた。なんとも言うことができないほど柔らかな、そしてとろけそうで、燃えそうなその唇は、なかば自分の唇を逆に口の中に含もうとしていた。
舌を出してみた。でも、何も触れない。横に動かしてみた。温かなものに触れた。
そこで目が覚めた。
「加藤鷹の手」だが、自動のものと、手動のものがあるらしい。って、そういう情報をもらったということだけだけどね。
何か絵を描こうとしていたのにも飽きたのか、ぼぅっと窓ガラスの外を眺めようとした、その時だった。
思わず、といっていい、大きな口を開けて、その女が欠伸をしたのだ。慌てて口を手で隠そうとするが、私にはのどの奥まではっきり見え、大きく開いたその口はひどくエロティックに感じた。
気づくと自分自身が大きく膨らんでいることに気づいた。一瞬、女の口の中に、自分自身が入り込んでいることを想像してしまったのだ。ゆっくりと口の奧のほうまで突っ込んで、喉に当たっているような妄想をしてしまったのだ。
赤い唇がそのとき、閉じようとしていた。
なめたり、もんだり、こすったり、もちあげたり、入れたり、抜いたり、つまんだり、たらしたり、吸ったり、噛んだり、犯したり、犯されたり、ほめたり、なでたり、してあげると、気持ちいいってことだよね。