ぷるんと揺れた赤い唇。
その女の唇が揺れるたびに、わたしは胸が苦しくなる。
はじめて見たあの唇は、ガラス越しだった。明るい日差しを浴びて、白い椅子にその女は座っていた。時折髪を掻き揚げる仕草は、そばで見ている誰もがため息をつくほど美しかった。その女は雑誌を読んでいたが、面倒くさそうに手にしているその雑誌のページをめくりながら、何ごとかつぶやいていた。
ガラス越しだから、何を言っているのかは聞こえない。ただ、真っ赤なルージュを曳いたその唇が、ぷるんぷるんと動くのが見えた。
唇の形が美しかった。ツンと上向いた上唇は肉付きがよく、なんにでも吸い付きそうだった。むしろよく動くのは下唇だった。小さくとがった舌でその下唇をなめる癖があるようで、そのせいかいつもぬれたその下唇はより赤い色を際出させていた。上下の唇が合わさった時は、じっと見ているだけで吸い込まれそうに、大きく、肉厚で、弾力があって、いつまで見ていても飽きない。
窓際に座っていたその女は、瞳を雑誌からテーブルの上に載っていたペンに移すと、すっと伸びた白い指先でペンを取り上げ、おもむろに雑誌に何かを書きつけ始めた。手にしているのは赤いマジックペンのようだった。大きく手を動かして、文字というよりは何か絵を描いているようにも見えた。
やがて、それにも飽きたのか、ぼぅっと窓ガラスの外を眺めようとした、その時だった。